【今月の道具】 ルシアンの刺繍糸

毎月、ものづくりに欠かせない「定番のアイテム」を1品だけご紹介する連載「今月の道具」。今回お話をうかがったのは刺繍糸や刺繍枠の「COSMO(コスモ)シリーズ」でもおなじみのルシアンさんです。作り手のみなさんに永く愛される、同シリーズを支えているのもまた、作り手として糸や木枠を手がける職人のみなさんの鍛錬でした。ご応募いただいた方の中から抽選で特別なプレゼントも。

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買い足す幸せ、眺める幸せ

取材で、刺繍作家さんのご自宅や工房にお邪魔すると、ずらりと並ぶ、そのカラフルで美しい刺繍糸たちに惚れ惚れと見入ってしまうことがよくあります。作家さんによって、ひきだしに入れたり、厚紙に巻き付けたり、と収納方法は実にさまざまですが、どの作家さんも同じように

ー そこから、「どんな色にしよう?」と選ぶのもたのしいんです。

と話してくれます。そして、手芸店で眺め、新しい色を見つけて買うとき、そして買い足すとき、さらには収納するときまで、刺繍糸に触れるそのすべての時間がみなさんにとって、とてもたのしいものなんだとか。

そんな幸せ者の道具「刺繍糸」が今回の主役。「COSMO(コスモ)刺しゅう糸」でもおなじみの株式会社ルシアンにお邪魔し、数百色の刺繍糸や新商品を見せていただきながら、じっくりとお話をうかがいました。

70周年を迎えるブランド

東京・浅草橋、ルシアンさんの東京店にお邪魔しました。お話をうかがう池田さんと星野さんが所属するのは「刺しゅう事業課」。

「本当は、ショールームをご紹介したかったのですがー」と池田さん。現在は改装中とのことで、カタログや実際の制作作品などを見せていただくこととなりました。

これは、ずいぶんと歴史を感じますね。いつごろのカタログでしょうか?
池田さん
1950年に刺繍糸のブランド「COSMO(コスモ)」の取り扱いをはじめたのですが、当時のものは残念ながら残っておらず、これはそれから数年経ったあとのものですね。ブランド名は変わらず、パッケージの変更や増色を繰り返して、来年にはおかげさまで70周年を迎えます。

 

まさに、ブランドが永く愛された「証」のような逸品ですね。
池田さん
永年、みなさんに愛用いただいているおかげですね。

当初は、何種類のカラーで販売を開始されたのでしょうか?
池田さん
販売開始時は、200色程度だったと聞いています。それが今では同シリーズだけで462色になりました。

発売開始時の数さえ多く感じてしまいますが、462色とは、想像をはるかに超える数でした。
星野さん
2017年にも久しぶりに更新され、この数になりました。なるべくこのグラデーションがなめらかになるよう、増色を繰り返しているんです。品番は、通常3桁の数字ですが、間に足した色は1桁増やして4桁、色味をすこし変えた場合は「480A」など末尾にアルファベットを加えることで、わかりやすく管理できるよう工夫しています。
池田さん
たとえば、「黒」の一色をとってみても、縁取る「黒」と動物の目の「黒」はきっと使いたい色がちがうんですよね。「真っ黒」だけではなく、ちょっとニュアンスを含んだ「黒」を加える、といったことも増色の際に行なっています。

たくさんの声が届く「刺しゅう事業課」

愛用されているみなさんの声を参考にされることもありますか?
池田さん
それは、たくさんありますね。黒や黄色の色味のバリエーションを増やしたのも、ご要望をたくさん頂戴していたという経緯がありました。あとは、イベント出展などの際にお客さまと直接お話しをする機会があるので、そういった場で使い心地の感想や要望をいただくこともあります。「あのキットをつくってみてたのしかった」といったお声も、「こんなものがあればうれしい」というご相談も、とってもうれしいんですよ。

星野さん
絵具とちがって「混ぜて新しい色をつくる」ということができないので、なるべくご要望にはお応えできるよう検討していますね。刺繍のテクニックについて勉強したり、刺繍愛好家の方とお話しする機会も多いのでそういったところでもヒントをたくさんいただきます。

自らも作り手として、作り手のみなさんの意見をしっかり受け止めながら、日々新たな商品の開発に取り組まれています。

まずは実際に体験する

「刺しゅう事業課」のほかのみなさんも、やはり刺繍をされている方が多いんですか?
星野さん
実は、刺繍にとても詳しいスタッフばかりで構成されているわけではないんです。なので、社内でワークショップのようなものを開催して、たとえば販売担当のスタッフであれば、そこで実際に挑戦してつくったものを販売店で見本として飾ってもらったりしています(笑)。そうすると、しっかり自分で体験して、「これは自分でつくりました」と語ることができるので。

それは、とてもおもしろい取り組みですね。講師は、どのような方をお迎えしてるんですか?
池田さん
講師はわたしたち(池田さん・星野さん)なんですよ(笑)。だけど、その場もすごく勉強になりますね。わたしたちが「当たり前」だと思っていることも、知らないスタッフはとても新鮮な視点で反応してくれるので、消費者の方たちと共感できる部分もあると思うんですよね。「使い込んでいるひと」「使ったことのないひと」の意見を両方取り入れられるという点ではすごく良い場で、商品開発や販促物に活かすことができています。

社内ワークショップで講師を務めることで、逆に「教わる」こともとても多いのだと言います。

叶えていたのは職人の技

取材でご自宅にうかがっても、作り手のみなさんのSNSなどを拝見していても、手芸をされている作家さんのお道具箱に「COSMO(コスモ)シリーズ」が入っていることは、本当に多いです。
池田さん
やっぱり実際に使っていただいて、そのうえで、永く選んでいただける、ということがとてもうれしいですし、本当にありがたいですね。

この色のラベルは以前のもの。資料として過去のデザインもこうして保管されています。

 

70年もの間、永く愛され続けている理由はどこにあると思いますか?
池田さん
品質と安心感ではないかな、と感じています。いつもお買い求めいただきやすいように、なるべく全国のたくさんのお店に置いていただけるよう努力しなければいけないと思いますし、実際に買い足したときに“色の差”があっては、作り手の方も困ってしまいますので、触り心地はもちろん、そういった品質の管理も厳しい目で行っていますね。

たしかに、「染め」の具合がちがうと作品が台無しになってしまいますね。そういった品質の管理はどのようにおこなわれているのでしょうか?
星野さん
糸は天然素材なので、同じように染めても、どうしても季節や気候によってまったく同じ色にはならないんです。それを、製造している工場で、永年の経験をもとにブレンドや加工をほどこして、職人技で均一に保つように工夫をしています。

 

ああ、その手間暇には想像が及んでいませんでした。そこにもまた、糸の作り手の「ものづくり」があるわけなんですね。
星野さん
まさにそうなんです。人の手による細かな調整が肝になっていたりして。染料は、前のデータと差がないか確認しながら染めているそうです。

池田さん
よく褒めていただく「触り心地」「刺し心地」に関しても、原糸の繊維が毛羽立っているものを、炎の上を通過させて余分な羽毛を焼く「ガス焼き加工」や、さらに「シルケット加工」という特殊な加工をほどこすことで、ここまで滑りのよい光沢のある糸にしています。

 

糸になめらかさが無ければ、やはり刺繍は刺しにくいですね。
池田さん
刺すときはもちろん、たとえば25番糸ですと6本撚りの状態からお好みの太さになるよう、細い糸を必要分とって使用しますが、その処理が甘いと引き抜くときに引っかかりやすいんです。COSMO(コスモ)はなめらかで引き抜きやすい。そういった使い勝手も考えて職人の手によってつくり込んでいるんです。


さらに驚かされるのは、刺繍枠づくりです。

星野さん
これも職人によって手づくりされているものなんです。「わっぱ」に近い要領で木を曲げてつくっています。

 

なんと、ひとつひとつ手づくりとは…、対してずいぶん安価な気がしてしまいます。
池田さん
職人技が光るアイテムですが、価格はお買い求めいただきやすいですよね。ただ、どうしても大量生産は難しいので、最近はあまりにも売れていて、生産が追いつかないことがあります。

刺繍枠を、そのまま壁飾りとして利用することも多いですものね。
池田さん
たしかにそうですね。「ひとつあればいい」というものでもなくなってきたので、生産力については現在検討しているところです。

刺し子の新ブランド「hidamari」

刺繍枠のほかに、最近特に人気の高いものはありますか?
池田さん
今は「刺し子」が人気です。海外でも「SASHIKO」で認知されるほど、世界的に人気が高まっているようで、ルシアンからも新しい刺し子のブランド「hidamari」を今春に発売しました。

hidamari(ひだまり)。かわいい名前ですね。
星野さん
ありがとうございます。明るく温もりを感じさせる太陽のようなイメージで名付けました。それぞれの色にも、たとえば緑なら「よもぎパン」のような色にちなんだ名前をつけています。たくさんの人に“つくるたのしさ”が伝わる「COSMO(コスモ)らしさ」を表現することができたかなと思っています。

色合いやパッケージにとても個性を感じますが、いちばんのこだわりはなんでしょうか?
星野さん
やはり、与える印象や「つくるもの」自体を幅広く提案できているところでしょうか。刺し子といえば「和風」、そして白いサラシや紺の生地に刺す、というイメージが強いと思いますが、オリジナルの「コーン巻き」という形状で販売することで、引き出しやすく使い勝手の良さはもちろん、雑貨感覚で並べて置いておきたいものにしました。作品も、カラフルな布にカラフルな糸で刺せば、とっても新しい表現ができると考えたんです。

たしかに、これまでイメージしていた「刺し子」とは違い、「北欧雑貨」のような印象も受けますね。
星野さん
そうですね。伝統的な技法の新しいたのしみ方を提案する、という挑戦だと思っています。

星野さん
こんなふうに、何度も試し刺しをしながらシミュレーションをして、試行錯誤を繰り返しながら糸色の開発も行いました。かなり時間がかかってしまいましたが、「hidamari
」という名前のとおり、たのしくてカラフルなものづくりをする陽だまりのようにあたたかい時間を、たくさんの方にお届けできればと思います。

定番を守ること、新たな定番をつくること

使い続けてくださる方の満足を高める努力と同時に、新たな定番を常に模索されているんですね。
池田さん
そうですね。この先も、そのふたつは常に続けていくと思います。ひとりでも多くの方に刺繍をたのしんでいただけると、うれしいですね。

星野さん
質の良さを保ちながら、初心者の方にとっても、熟練の方にとっても頼れるブランドとして選び続けていただけるよう努力したいと思います。
今月のプレゼント
刺繍糸のセット
「hidamari」を含めた、刺繍糸のセットを、抽選で10名様にプレゼントします。記事の感想を書いて、ぜひご応募ください。

  • ・応募締め切り 2019年5月31日
  • ・当選は発送をもって代えさせていただきます
  • ・種類は選べません、あらかじめご了承ください

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取材・文 / 中前結花  撮影 / 真田英幸