スペインタイル陶芸家・陶工房 Francescaさん「おおらかさと温かさを届けたい」

ひと目見ただけで心が明るく晴れ渡るような、彩り豊かなスペイン陶器。その魅力に惹かれて15年以上、作品を制作し続けている陶芸家・陶工房Francescaさんのもとへおうかがいしました。

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スペインタイルとの出会い

今回お邪魔した陶工房Francesca(以降、Francesca)さんのアトリエは、スペインタイルアートの教室も開催されているという一室。一歩足を踏み入れると、色鮮やかな作品たちが迎えてくれました。

minneのギャラリーページもとても華やかですが、実際に目の当たりにすると、本当に美しいですね。

Francesca
ありがとうございます。スペインは「太陽の国」とも言われていますが、そんな土地柄か明るくてカラフルな色使いが多いので、目を惹きますよね。

 

スペインタイルとの出会いは、やはりスペインでしょうか?
Francesca
いえいえ、それが実はわたしはスペインに行ったことは一度もないんですよ(笑)。いわゆる「和」の陶芸は元々学生時代からずっとやっていたのですけれども。

 

ろくろを使うような?
Francesca
そうです。大学も美術科で、大学院では工芸の研究をしていました。なので20年以上陶芸には携わっていたんですけれど…30代の後半に、ふとしたきっかけで、父と母に会いに実家に帰る機会があったんですよ。そのとき部屋の片隅に、昔からずっと飾ってあった小さなタイルが目に入って。その瞬間に心の中に、何か輝きのようなものがフーッと入ってきたんです。思わず手にとってジッと眺め入ってしまいました。それがスペインタイルとの出会い。そこから一気に虜になってしまいました。

 

昔から飾ってあったスペインタイルが、ある日、違って見えたんですね。

Francesca
なぜそう見えたか、そのときはわからなかったんですけど、今振り返ると思うのは、その作品が発する「おおらかさ」のようなものに惹かれたんだと思うんです。

おおらかにたのしむ

スペインタイルに見る「おおらかさ」は、どんなものでしょう?
Francesca
スペインタイルには「そのままでいいじゃない」とありのままを包んでくれるようなおおらかさを感じるんですよね。たとえば一番わかりやすいのは本場の絵付け作品です(笑)。よく見ると線が1本抜けていたり、まっすぐじゃなかったり、色を入れ忘れている部分があったりするんです(笑)。普通「これじゃ売りものにならないだろう」と考えると思うんですが、きっとこれを売った人は「まあでも、よく描けてるからいいや!」って売っちゃったんだと思うんですね(笑)。それはある意味ではアバウトすぎかもしれないけど、一方で、たとえ不完全なものでも大きな目で見たら素晴らしい、美しいと認めてくれるということ。そこが魅力だし心が惹かれてしまうんだろうなと思います。

 

それからすぐに、日本でスペインの陶芸を学べる学校を必死に探したFrancescaさん。たどり着いたのは東京にある「スペインタイルアート工房」でした。トライアルで制作体験をすると、そのたのしさに“どハマり”してしまったそう。今では自身の教室を開講し、今年で10周年を迎えます。

Francesca
先生の元で学んだことは、技術的な面はもちろんたくさんありますが、心につよく残っているのは「なんとかなるから大丈夫」「肩肘張らなくていい」「たのしんでつくろう」ということです。それまで、完成度の高さばかりを求めていたわたしにとっては、衝撃的で、同時にかなり救われました。スペインタイルは、作り手の「たのしむ気持ち」がそのまま反映されるものだと感じます。今、わたしが開催している教室でも「たのしむ」ということは大前提にしていますね。

Francescaさんの教室で学べるのは、スペインの伝統陶絵付け”スペインタイル・アート”。タイルだけでなく、陶器の絵付けも行います。写真はスペインタイル初心者向けの「お魚」をテーマにした課題作品。子供向けの特別講習を開くこともあります。

 

小さな子どもが紙に描いた絵を、タイルとして残す試みも行っています。「子どもの絵を、そのまま紙で残しておくのもいいけれど、タイルにすればどこかにはめることもできますし、より長く残しておけますよ」。子どもならではの多少ゆがんだ線も、こんなに立派な味わいに。

 

何度でも「やり直せる」

 

実際の制作の工程を少し見せていただけますでしょうか。
Francesca
もちろんです。日本の陶芸に染付や刷毛目などの装飾技法があるように、スペインの伝統的な絵付け技法にもいくつか種類があるんですが、わたしが主につくっているのは「クエルダ・セカ」という色釉薬そのもので盛り上げるように絵付けするものと、「マヨルカ」という水彩画のような雰囲気の絵付け作品です。

表面に立体感がある「クエルダ・セカ」はもともと、イスラムから入ってきた技法なのだそう。「色釉薬を塗るのではなく、盛り上げて乗せるように絵付けをすることで、カラフルかつ立体的な仕上がりになります」。

 

イタリアにも渡ったと言われるスペインの技法「マヨルカ」も見せていただきました。「こちらは最初に全体に白い釉薬をかけ、あとから筆で描いて絵付けします。水彩画のような仕上がりになります」。

 

Francesca
デザインは、古典的なタイル作品や刺繍のデザインから構成や配色を参考にすることもありますが、自分のオリジナルの世界観を大事にしてアイデアを練り、つくり出しています。鳥を飼っていることもあり、大好きな花や鳥のモチーフが多いです。制作の最初の段階は作品のアイデアをスケッチブックに描くところからはじめますが、「クエルダ・セカ」の作品はそれをパソコンに取り込み、Photoshopで加工して立体感をつけることも。実際の仕上がりに近い状態を確認できますし、一部のデザインや色を変えたり、バリエーションもつくりやすくなります。

Francesca
「マヨルカ」は素地のタイルや器にまず白い釉薬を掛けてしまいます(和の陶芸とは工程が逆になります)。それをよく乾燥させて、その上に顔料で絵付けします。絵付け用のデザインをトレーシングペーパーに写し取り、線の上を裏から針で穴をあけ、転写シートをつくります。

Francesca
釉薬を掛けたタイルなどに、転写シートを乗せ、炭粉を包んだタンポで擦って下描き線を写し取ります。炭の粉は焼くと燃えて消えてしまうので絵柄には影響しません。

Francesca
一方「クエルダ・セカ」の技法では、カーボン紙を使ってタイルに直接絵を転写していきます。その線の上をシャープペンシルでしっかりとなぞり、輪郭線を描きます。このごくわずかな厚みの線が、色釉薬を乗せるときに堤防の役割を果たしてくれます。

 

このような工程があるとは知りませんでした。シャープペンシルで堤防をつくるのですね。鉛筆ではだめなのでしょうか?
Francesca
わたし自身いろいろ素材を試しましたが、鉛筆や外国製の芯では成分の影響が出てしまうことがあるようです。ありがたいことに昔どなたかが「シャープペンシル(の芯)、使える!」と発見してくださったんですよね。きれいな太さの線が描けるし濃さもちょうどいい。発見してくださった方、天才だと思います(笑)。シャープペンで描くこの線は輪郭線として残るので、ここで手を抜くと仕上がりに影響が出てしまう大切な作業です。とは言え、失敗したら消しゴムで消せばOK!

Francesca
大きな面はスポイトで、小さな面はスペインから輸入された絵付け筆を使用して、色釉薬を乗せていきます。細やかな作業ではありますが、多少はみ出しても、ナイフで削って、綿棒でこすって、それでも気になるなら消しゴムをかければ元どおりです。

日本にありそうでない絵付け筆。片側は尻尾が生えたように長くなっており、スポイトの役目を果たしてくれるのだそう。

 

Francesca
絵付けが完成したら、乾燥後に電気窯で約1,000度で焼成します。ゆっくりと冷まして3日目に窯出しして完成です。もし、思うように色が乗っていなかったり、ムラができても大丈夫。味になることもありますし、気になる場合は釉薬を乗せ直す、など修正して焼き直せばOK。多いときは4回くらい焼き直しても大丈夫でしたよ。

 

失敗やつくり直すことに対して、前向きな印象です。

Francesca
何事でもそうだと思うんですけど、失敗したらやり直せばいいと思うんです。「それでいいのいいの、大丈夫!」というのはスペイン人の口癖らしいんですけど(笑)。その気質がスペインタイルにまさに表れるんだな、と感じます。わたしの作品にもそんな、背中を押してくれるようなおおらかさと「そのまま」を温かく受け入れてくれるようなメッセージ性を宿したいですし、誰かにとってそういうものであったら、うれしいですね。

想いを込めて制作されたFrancescaさんの人気作品をピックアップしてご紹介。「“カゴトレー”は日本の籐作家さんに編んでいただいたカゴに、スペインタイルをはめ込んだものです。籐は時間が経つと飴色のように色が深まっていくので、経年変化もたのしんでいただけます」。

 

香炉やランプとして使用できる小鳥のランプは、彫刻の技術も取り入れて制作されたもの。「いちばん好きなモチーフが、姿や形でデザインや色を遊べる“鳥”なんです。どこか不思議で、お話が浮かんでくるような魅力がありませんか」。

「オリジナル」への挑戦

発色の美しさも魅力ですが、色釉薬にはどれくらいの種類があるのでしょう?
Francesca
スペインの伝統的な配色は、ブルー、オレンジ、イエロー、グリーンの組み合わせです。空や太陽、大地などのアースカラーでもありますよね。わたしは先生から教わった18の色を基本的に使っています。あとは自分で混ぜてオリジナルの色をつくっていくんですけど…たとえば、色鉛筆のように色が多ければ多いほど描くのがたのしいのと一緒で、どんどんオリジナルの色を生み出した結果、今は100色くらいを使い分けています。

オリジナルカラーの中でも、特にFrancescaさんのお気に入りなのが「くすみのあるブルー」。「大人っぽくて、ピュアさもあって、しあわせも感じさせてくれる色」。

 

それでこんなにカラフルな作品ができているんですね。
Francesca
お客さまによってはこだわりのあるお色を好まれる方もいらっしゃるので、オリジナルの色もすべて番号をつけて管理しています。作品自体もminneのレビューで「こんなサイズがあったらな、こんなものがほしいな」とご希望をいただき、制作することがあるんですが、色味もまた、お客さんとのやりとりで新色が生まれることも多いですね。

そんなオリジナルの色釉薬をふんだんに使い仕上げたという、過去の展覧会出品作も特別に見せていただきました。タイトルは『王の庭』。

繊細な色使い、グラデーションが素敵です。
Francesca
この作品は半年かけてつくりあげたものです。色味はもちろん、モチーフの配置、遠近感などさまざまな試行錯誤をしました。もともとはない素材をつくり、異素材として組み合わせたり、オリジナルの世界観にこだわりました。

 

ツルツルとしたタイルの中に、ザラっとした異素材の組み合わせは新鮮ですね。

Francesca
スペインの伝統的な技法や古典的なモチーフはこれからも大切にしながら、立体感のあるものや、素材の組み合わせなどで、新しい作品にもチャレンジしていきたいですね。

 

今後の夢をおしえてください。

Francesca
スペインタイルの制作で使用する釉薬は、すべてスペインのものなのですが、実際にスペインの太陽の下で見るとものすごく綺麗らしいんですよ。それはもう明るくて輝きが違って見えるとか。なのでいつか本場のスペインを訪れて、たくさんの作品を自分の目で見てみたい。私の作品も持参してどんな風に見えるのか知りたいし、本場のスペインの方にも見ていただけたら…考えただけでワクワクしてしまいます。
陶工房 Francesca
スペインタイルの美しさに魅せられ、その技法を活かしたオリジナルの作品を制作。千葉県船橋市にある陶工房ではスペインタイルアート教室を開催。
https://minne.com/@toufrancesca

一部作品デザイン提供:スペインタイルアート工房
取材・文 / 西巻香織 撮影 / 真田英幸