今週のものづくりの言葉「あなたにとって、ものづくりのクライマックスはどこですか?」

ものづくりの現場にお邪魔し、日々たくさんのお話をうかがう中で、わたしたちは、いくつもの「はっとするような言葉」と出会ってきました。それをすこしでも多くのみなさんに届けたい、という想いからはじめる連載です。ものづくりに携わる人にも、そうでない人にも。ひたむきな「作り手の言葉」は、なにかのヒントになったり、ときにはおまじないになったりするかもしれません。

今週の言葉

わたしにとっては、きっと制作途中が「クライマックス」で「頂点」なんですね。全貌が徐々に見えてくるのが、たまらなくおもしろいんですよ。

イラスト:絵と図 デザイン吉田

2017年11月、刺繍作家・うめだゆみさんにお話をうかがいました。
 
この取材のほんの数日前、minneはクリスマスに向けたテレビCMの撮影を行なっていました。全528カットからなるコマ撮り動画。その登場作品として、うめださんにもオリジナル作品の制作をお願いしていたのです。
 
刺繍をほどこしていただいたフェルトの枚数は合計60枚。
「なんという労力だろう」
依頼の内容を側で見ながら、そんなふうに感じていました。そして、その撮影日、わたしは軽いショックを受けます。コマ撮り手法ですすめられるCM撮影は、完成された刺繍にチョキチョキとハサミを入れ、ほどいていくことで、表情の動きを表現していく、というものでした。
切り刻まれていく60枚の作品。きれいに完成したままの刺繍は、1枚も残ることがありませんでした。
 
そして、なんと見学にきていたうめださんは、その一部始終を間近で静かにじっとご覧になっていたのです。
「どんな気持ちだろう」
とても残酷なことをしてしまった、という気分でした。
ところが、その数日後に迎えたインタビュー当日。
「作品をすみません。だいじょうぶでしたか?」とおうかがいすると、うめださんはとてもハツラツとした笑顔で「まったく問題ないですよ!とってもたのしかったんですから」と答えてくださいました。そして言うのです。
「わたしは完成品を愛でるタイプではないんだと思います。つくり終えたものは、買ってくださった方や手にしてくださった方の好きに使っていただいて問題ないんです。とにかく、つくっているときがたのしくてたのしくて。わたしにとっては、きっと制作途中が“クライマックス”で、“頂点”なんですね。全貌が徐々に見えてくるのが、たまらなくおもしろいんですよ」。
 
 
帰りのバスの中、「つくる喜び」について、そして仕事として引き受けてくださっていた作家さんの制作について、「自分はなんだか勘違いしていたところがあったかもしれないな」と、気づきや反省、そして幸せな想いが入り混じった、はじめての心地で帰ったことをよく覚えています。
 
以降、作り手の方へのインタビューでは必ず「あなたにとって、ものづくりのクライマックスはどこですか?」と聞くようになりました。答えは本当にさまざまで、その人を象徴するような言葉が返ってくるように思います。 
うめださんのおかげで、「ものづくりは作り手の数だけ、かたちがある」、ということがとてもよくわかる質問を手に入れました。
 

<紹介した取材記事>
2017年11月の記事:
刺繍作家うめだゆみさん「“つくっているとき”がクライマックス」

ヒロインの恋する心の動きを刺繍で見事に表現してくださった、刺繍作家・うめだゆみさんにお話を伺ってきました。
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来週の言葉もおたのしみに。
 
文 / 中前結花  イラスト / 絵と図 デザイン吉田
今週の作り手 / うめだゆみ