【1,000万分の1作品】わたしの「語りたい作品」<3>

作家さんの想いを込めた作品のひとつひとつが集まって、minneの公開作品数が1,000万点を突破しました。ギャラリーに並ぶ作品の中から「語りたくなる作品」を作家さんに選んでいただき、お話をうかがいました。

作品の物語

minneが誕生したのは2013年のこと。たくさんの作家さんに恵まれ、想いを込めた作品のひとつひとつが集まって、このたびminneの公開作品数が1,000万点を突破しました。

多くの作品が日々生まれていく中でも、はじめて制作した作品、転機となった作品など、作家さんにとっての特別な作品があるに違いありません。そこでSNSにて作家さんにとってのかけがえのない「1,000万分の1作品」を募集。その作品にまつわるエピソードを語っていただきました。

まるぺさんの
「手帳型スマホケース」

まるぺさん
制作をはじめたきっかけは、夫の「一緒にスマホケースをつくらない?」というひと言でした。スマホケースって、つくれるの?どこか印刷屋さんに頼むの?と最初は疑問だらけだったことを覚えています。

結婚を機に退職するまで、デザインひと筋で働いてきたわたし。最後に勤めたのは洋服につけるボタンなど、付属品を生産する町工場でした。そこは、自社でいちから「もの」をつくり上げる“一貫生産”を軸としていて、デザインや企画に携わる中でわたしは「ものづくり」のたのしさ、奥深さを知り、虜になっていました。

だからこそ知っていた「たのしい」だけで成立する世界ではないということ。ところがなぜか夫は自信満々の様子で「やるならとことん。印刷機を買おう!」と言うのです。

たのしそうに提案してくれる夫の横で、わたしの「本当につくれるの?」という不安は徐々に「もう一度ものづくりをたのしみたい」という気持ちに変わっていきました。

まずはハードケースのみに絞り、minneで販売をスタート。すると間もなく注文が入り、すこしずつフォロワーさんも増えていきました。いつの間にか不安はなくなっていました。そんな中、お客さまから「手帳型ケースをつくってほしい」という声が。わたしの心の中に真っ先に浮かんだのは、「どうしよう」という不安ではなく、「チャレンジしたい」という気持ちでした。

ところが、その道のりは想像以上に困難なものでした。手帳型の真っ白な良質なベースを、安定した量確保するために、スマホケースの印刷を請け負っている企業に片っ端から電話をかけては、断られる日々。ネット上のほぼすべての企業に電話をかけ終えてしまい諦めかけたとき、偶然にも「印刷ベースの制作を試行錯誤しながら行っている」と紹介している、とある印刷会社のブログを見つけたのです。

藁にもすがるような思いで電話をすると、営業担当の方は「わかりました。サンプルはどこに送れば良いですか?」と快く快諾してくださいました。いただいたサンプルは今まで仕入れたベースの中でも断トツに良質なもの。その後も、その会社の社長さんに手帳型ならではの、凹凸に色を乗せる技術や必要な道具などを親身におしえていただき、実に半年以上をかけて完成させた記念すべき第1号の手帳型ケースが、この作品です。

しっかりとした強度を保ちながらもスマートなフォルムに。現在は中面の色をカスタムし、まるぺオリジナル仕様になっています。


社長さんに「わたしは大きなお得意さまにはなれないのに、こんなに大切な技術をお話しされていいのでしょうか」とうかがったことがあります。社長さんはこう言いました。「僕も納得いく仕上がりになるまで試行錯誤し、苦労したからこそ力になりたいんです。ものづくりを一緒に盛り上げていきましょうよ」。胸が熱くなり、感謝の気持ちしかありませんでした。

作品はひとりで考え、生み出すものだと思っていたけれど、たくさんの人と人の繋がりが叶えてくれるものづくりもあります。「まるぺさんの手帳型ケースが欲しいんです。何年でも待ちますよ」とあたたかい声をくださったお客さま、前職で培った「ものづくり」への姿勢、印刷会社社長さんのやさしさと励ましのおかげで、諦めずに作品を完成させることができました。再びものづくりのきっかけを与えてくれ、完成までを見守ってくれた夫にも感謝です。

最近は、子どもが生まれたことをきっかけに新たな機械を導入し、子育てママさんに寄り添える作品をつくりはじめました。ベビー服やスタイ、一緒にお出かけをたのしめるようなミニバッグ、親子でお揃いコーディネートができる幅広いサイズ展開のTシャツなど。これからも失敗を繰り返しながら技術を身につけ、いろんな人と繋がりながら「ものづくり」をたのしんでいけたらと思っています。


まるぺさんにとって「手帳型ケース」は、たくさんの人の支えがあったからこそ実現できた、かけがえのない作品でした。

【まるぺ】さんの作品一覧

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Your Side Doorさん
「蝶番のレザーブックカバー 」

Your Side Doorさん
あれは6年前のこと。当時、会社勤めをしていたわたしは、1年がかりの本格的なビジネスセミナーに通っていました。そこでたまたま、自分と同じく「革細工」を趣味とされる方に出会ったんです。革のおもしろさや魅力についての話に花を咲かせたり、会社があるために制作にわずかな時間しかとれないことを嘆いたりと、革作品への思いを共有し合える貴重な友人ができました。

充実した時間を過ごせたセミナーも1年で終了。それから間もなくして、わたしは緊急入院をすることになってしまったのです。そして医師から病の特徴や生存率について聞かされるうち、「定年後のたのしみと思っていたことを、今すぐやろう」と決意することとなりました。

東京から故郷である那須に戻り、療養と革作品の制作の日々がはじまりました。

「何かおもしろいものをつくりたいな」と日々、思考をめぐらせる中で、心がときめくある企画を思いつきました。それは「決まった素材のものを革でつくってみる」ということ。以前にもサイコロや腕時計ベルトのコマを革でつくったりしていたわたしが、そのときひらめいたのは「革の蝶番で開閉するブックカバー」のアイデアでした。とはいえ、求める強度の革は簡単に手に入るものではなく、また、試作分と作品分という量を準備することも難しく、アイデアはあるものの実際には一歩踏み出せずにいました。

寒さがもっとも厳しい2月のある日、セミナーで出会ったあの友人から「転居祝い」が届きました。それは牛の半頭分、半裁(はんさい)と呼ばれるサイズの大きな貴重な革だったんです。「こんな作品をつくりたいけれど、素材の調達が難しくて」と伝えていたわけでもないのに、です。まさかのプレゼントに驚いてしまいました。そのときのうれしさは忘れられません。

すぐに制作にとりかかりました。裁断から始まり何時間もかかる下ごしらえ、折り曲げて成形する際の力加減や曲線の描き方など独自に研究を重ねて、無事完成したのは、革をいただいてから半年が経った暑さの厳しい8月のことでした。

ついに出来あがった1作目の「レザー蝶番のブックカバー」。うれしくてメガネを上げ下げしながら、しばらく出来たてのブックカバーを開けたり閉じたりしていました。開閉時の「クククッ」という独特な音(振動?)も心地よく、わたしも一緒に「クククッ」などと言っていて、傍から見たらちょっと気持ち悪かったでしょうね(笑)。

今ではわたしにとってもすっかりお気に入りの作品となっています。どんな本を挟んでも、カバーの厚みは変わらないので、薄めの本なら2冊持ち運べるように細い補助ベルトを付けたところが、密かなこだわりポイントです。

この作品をきっかけに、「作品のファンです」とおっしゃってくださる方が現れるようになりました。毎日のように告知の応援もしていただけて、無名のわたしの両手をつかんで引き上げてもらえているような感覚でした。そんな感覚を味わうことができたのも、貴重な素材をプレゼントしてくれた友人のおかげです。本当に今でも感謝の気持ちでいっぱいです。

自分の中で「もっともっとたくさんの作品を永くつくっていきたい」という欲も生まれ、体力づくりも課題にしながら制作するようになりました。

今は、革細工のキットづくりにチャレンジしています。“はじめてでも、忙しくても、道具がなくても始められる”を心がけたミニチュアの靴やカバンのキットです。会社員の頃のわたしたちのような人にもたのしんでもらえるよう、工夫をしながら制作に励んでいます。


Your Side Doorさんにとって「蝶番のレザーブックカバー」は、友人からの門出のプレゼントがあったからこそ完成した、奇跡の作品でした。

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ひとつひとつの作品に、まつわる物語があります。Twitterでハッシュタグ「#ミンネ1000万分の1作品」で検索をすると、さまざまな作家さんの「作品」に関するエピソードをご覧いただけますのでぜひ、チェックしてみてください。

取材・文 / 西巻香織