今週のものづくりの言葉 「辛さって、結局“チャラ”になっちゃうんですよね」

ものづくりの現場にお邪魔し、日々たくさんのお話をうかがう中で、わたしたちは、いくつもの「はっとするような言葉」と出会ってきました。それをすこしでも多くのみなさんに届けたい、という想いから届けている連載です。ものづくりに携わる人にも、そうでない人にも。ひたむきな「作り手の言葉」は、なにかのヒントになったり、ときにはおまじないになったりするかもしれません。

今週の言葉

ひとりですべての工程を手がけているので、もちろん制作中は“産みの苦しみ”も多少あります。だけど、そういう辛さって、結局“チャラ”になっちゃうんですよね。

イラスト:絵と図 デザイン吉田

2018年5月、シルバー&革小物作家として活躍されているajinaさんのアトリエに、お邪魔しました。
 
父の日を控えていたこともあり、男性への贈りものとしても人気の高い革物作品の制作過程や名入れの瞬間を見せていただくことになりました。
ガレージを改造したというシェアアトリエは、シャッターやむき出しのコンクリートが取り囲む無骨でしっとりと味わい深い空間。ajinaさんは日夜その場所で、作品づくりに没頭されています。
 
使っているのは、天然の染料を使用してご自身で染め上げた革素材。
いくつもの工程を経て「財布」や「キーケース」となりますが、それらは最初から最後まですべてajinaさんによる手作業です。

見惚れるような革のツヤとステッチの仕上がり。
しかし、この美しさを産み出す作業のひとつひとつは、決して派手なものではありませんでした。

夏は暑く、冬はとても寒い、と仰るアトリエでひたむきに「淡々と」「黙々と」。
ギフトシーズンは一層忙しいそうですが、当然変わらず、丁寧にひと針ひと針と縫い進めていくのです。
手間暇をかけて「産み出し続ける」姿は、ともすれば途方もなく過酷な制作のようにも映ります。
 
しかしajinaさんのお話はどこか軽やかで、とても共感をおぼえるものでした。
 
「ひとりですべての工程を手がけているので、もちろん制作中は“産みの苦しみ”も多少あります。だけど、そういう辛さって、結局“チャラ”になっちゃうんですよね」
 
筆が遅く、いつもうんうんと唸るように原稿を執筆しているわたしは、書き終わったあとの快感や、だれかに届いたときの底知れない喜びを知ってしまったばかりに、苦しみながら書いている、という人間ですから、
 
「苦労してつくりあげた先に、喜びがある」
「チャラになってしまう」
 
そこに突き動かされる感覚はとてもよくわかります。
そして、ajinaさんにとっての「喜び」とは、お話をうかがううち「納得」と「誇らしさ」にあるのではないかと感じました。
 
「作品が完成したときが、本当にうれしくて。こだわってこだわって、“よし!”と納得のいく作品ができて発送する瞬間は、何ものにも代えがたい喜びがあります。そういう瞬間があるから、“ものづくり”をずっと続けていけるんだろうなと思います」

自分を満足させることができる作品を産み出すことができた、ということ。
そして、その作品を求めてくれる誰かに届けることができる、ということ。
惚れ惚れするような革小物の「完成」こそが、ajinaさんにはつくり続けるためのエネルギーになっているのです。
つくることで、また次をつくることができる。
作り手にとっての燃料である「やりがい」や「原動力」を、「続ける」ことで産み出す姿が、とても眩しく格好良く見えました。
 
火を絶やさぬよう薪をくべるように、ものづくりを続けるということ。
その繰り返しの中で、小さな幸せや大きな感動と出会い続けるはずです。
そしてそれはきっと、技術と想いを込め、自らの手でつくるからこそ得られる喜びなのだと思いました。
 

<紹介した取材記事>
2018年6月の記事:
シルバー&革小物作家ajinaさん「ものづくりで食べていく」

ajinaさんがこだわるのは「自分の手を動かして、食べていく」ということ。お話をうかがうため、ガレージを改造したというシェアアトリエにお邪魔してきました。
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文 / 中前結花  イラスト / 絵と図 デザイン吉田
今週の作り手 / ajina