素敵な器でいただきます。vol.9「鎌倉のカレー屋さん、OXYMORON komachi」

食事をするとき、その器が素敵だとおいしさも倍増するような…とってもしあわせな気持ちになりませんか。目でみてたのしめる、味わってたのしめる、そんな豊かな「いただきます」の時間を堪能できるお店をご紹介します。第9回目は、鎌倉にある、カレーと甘いものと雑貨のお店「OXYMORON komachi(オクシモロンコマチ)」にお邪魔してきました。

カレー偏愛

JR鎌倉駅を降りて、賑わいのある小町通りを進むこと徒歩5分。落ち着いた雰囲気を放つ建物の2階が今回の目的地。カレーと甘いものと雑貨のお店「OXYMORON komachi」です。

店内に入ると、大きな窓から降り注ぐ光が、広々とした空間いっぱいに広がっていました。

「ここは2008年の10月にオープンしたOXYMORONの1号店なんですよ」。お話してくださったのは、シェフ兼ディレクターをつとめる、村上愛子さん。

もともと村上さんは大のカレー好き。毎日のようにカレーをつくり、食べ歩く日々を経て、二子玉川で念願のカレー屋さんを、5年間営んでいたそう。「夜はバーとして営業している地下のお店を、昼間だけ間借りしていたんですよ」。ひと鍋ずつ丁寧にこしらえる村上さんの間借りカレーは口コミで人気を集め、そこに訪れたお客さんのご縁をきっかけに、この「OXYMORON」をオープンすることに。

OXYMORONの4つの定番人気カレー(和風キーマカリー、チキンカリー、エスニックそぼろカリー、スリランカ風マトンカリー)はどれも、当時のレシピそのまま。

間もなくして行列の絶えない人気店となったOXYMORONは、現在4店舗にまで拡大中。雑誌をはじめ、メディアにも多数取り上げられ続けています。

「OXYMORON」の由来

「よく【OXYMORON(オクシモロン)】ってどんな意味?と聞かれるんですよ。ちょっと難しいんですけれど、撞着語法(どうちゃくごほう)と呼ばれる、矛盾した言葉を組み合わせる表現技法のことなんです。たとえば“公然の秘密”とか“永遠の一瞬”とか、そういう反対のことを同時に考える瞬間って実はたくさんありませんか。わたしはカレーをつくるときも、お店をつくるときも、反対の要素を意識することが多かったので、店名にぴったりのことばだと思い、名付けました」。

お店のコンセプトも、いい意味で決め込みすぎず、両極にある要素も取り入れるのだと言います。「すっきりしているようで雑多、新しい建物だけどヴィンテージ感のあるインテリア、など、まさにOXYMORONのように、相反する中での絶妙なバランスをとるようには心がけていますね」。

シンプルな空間には、スタッフユニフォームのエプロンや、店内で使っている器やフードも販売されています。

風合いのあるインテリアたちの中でも特に思い入れがあるという照明は、陶芸作家・伊藤環さんに手がけていただいたものだそう。「お店をオープンするときにつくっていただいた作品です。照明はお店になくてはならないものですし、毎日使い続けるものなので、気に入るものが見つかるまで探し続けていました。この照明は空間を邪魔しないシンプルなデザインが好きです」。

食べもの、インテリアや道具など、日々の暮らしに関わるものは妥協せずに選び抜くという村上さん。「店内で使う器はこのお店ならではのものにしたいと思い、こだわりました」。

馴染む「器」

店内で使用しているメインの器を並べて見せていただきました。「器作家・イイホシユミコさんにお願いして制作いただいた、OXYMORONシリーズです。大きさやイメージを伝えて、何度かサンプルをつくっていただき一緒に考えました。この深みのある色味もとても素敵でしょう」。

お店のテーマカラーでもある美しいモスグリーンの色味は、イイホシさん自身が納得のいく釉薬を探して回り、制作してくださったそう。

イイホシさんの器はずっと大好きで、お店をはじめるなら、イイホシさんの器を使用したいと思っていたという村上さん。その魅力は洗練されたデザインにあると言います。

「一見シンプルですべて同じようでいて、1枚1枚表情が異なるんです。“手づくりのものは作り手の跡が残らないように、プロダクトのものは手づくりのいい部分を活かして味気なくならないように”という、ちょっと普通とは逆のような制作の考え方が好きなんです。これもOXYMORON的かもしれませんね」。

スタイリッシュなオモテ側からは想像のできない、愛らしい丸ロゴが入った器は初期に制作されたもの。

「カレーの色味にもスッと馴染んで引き立ててくれます。相性抜群なんですよ」。

さて、それではこのへんで。お食事をいただくことにしましょう。

香りに包まれて「いただきます」

オーダーして待つこと数分。スパイシーな香りとともに運ばれてきたのは、OXYMORONの名物「和風キーマカリー」です。シンプルな器がライス、キーマカリー、ネギのシンプルな層を引き立てていました。「これは、間借りでカレー屋さんをしていた頃に、老若男女に食べていただけるカレーをつくろうと思って完成した一品です。発想の源は“豚汁”。にんじんやごぼうなどの根菜を長時間炒めて香りを立たせ、2種類の味噌をごま油で炒めて加えているんですよ」と村上さん。

“和”を感じつつもコクのある、さまざまな味わいのつまった後をひくカレーでした。ルーの上にたっぷりとかけられたゴマも香ばしくて絶品。玄米と緑米を混ぜたお米もさっぱりとしていてマッチしていました。付け合わせの漬物にはゆず酢が使用されており、さっぱりとした後味に。さらに「お得な気分になるように」という想いから、おまけとして付けられたくるみのお菓子もほんのり甘くて美味しかったです。

取材日当日は、真夏日。カレーのおともには、窓から見える梅の木に成る実を、大家さんにいただいたことをきっかけにつくりはじめたという「梅ソーダ」をチョイス。ほどよい酸味と喉ごしのいい炭酸、シナモンと八角のスパイスが効いた爽やかな風味でした。華奢ながら存在感のあるフォルムのガラスの器もまた、イイホシユミコさんデザインのもの。

食後のデザートにはプリンを。昔ながらのスタンダードなシルエットが目を惹きます。たっぷりかけられたカラメルソースと、隣に添えられたホイップ、モスグリーンの器とのコントラストが綺麗。

鎌倉のOXYMORONでいただく、和風キーマカリーとプリンは、小説家・小川糸さんの人気作『ツバキ文具店』にも登場する組み合わせで、原作ファンが訪れることも多いそう。プリンのしっかりとした硬めの食感はどこか懐かしく、食べ応えも◎。

たくさんの食材が入ったカレー、スパイスの効いたドリンク、やさしい味わいの甘味をいただき、元気がフル充電されたような気持ちになりました。

「カレーの好きなところは、シンプルに元気になるところ。作り手としては、どんな食材を合わせてもよい、という自由なところも魅力です。気になるスパイスで研究を重ね、OXYMORONな要素をたのしめるようなカレーづくりにチャレンジし続けます」と村上さん。カレーはシーズンや各店舗でも異なるとのことなので、巡ってみるのもおすすめです。また、運がよければ店舗にて、OXYMORONシリーズをはじめとするイイホシユミコさんの器を購入できることも。ぜひチェックしてみてください。

次回はどんな素敵な器とごちそうに出会えるのでしょうか。
乞うご期待。

OXYMORON komachi
住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下1-5-38 こもれび禄岸2F
電話:0467-73-8626
営業時間:11:00~18:00(LO17:30)
定休日:水曜日※不定休あり
公式サイト:https://www.oxymoron.jp/

取材・文 / 西巻香織   撮影 / 真田英幸