おかしなこだわりが詰まった「間取ラー」。真面目にふざける「株式会社人間」ってなに?

間取り図をモチーフにした、ユニークなアイテム「間取ラー」。誕生や制作の裏側をうかがおうと取材に出かけたのですが、待ち受けていたのは、どこかおかしな商品たち、そして真面目に真剣におかしなことと向き合い続ける不思議な会社でした。

発売開始から注目を集め、SNSでも話題に。そのユニークなアイデアから、minneを通してもたくさんファンを生んでいる作品「間取ラー」。名前のとおり、部屋の「間取り」をモチーフにした、なんだか気になるアイテムです。販売しているのは、広告制作会社である「株式会社人間」。
いったい、どんな企業なのでしょうか。

なぜか惹かれる不思議な会社

「東京モバイル支社」とあるので、さっそく取材についてうかがってみたところ…。

いったいこれは。
なんと背負って歩けるタイプの「支社」として、代表の花岡さんが週に何度か東京にいらしている…とのこと。ますます謎は深まるばかりです…。
 
そんなわけで、なにか大きな力に導かれるように新幹線に飛び乗り、大阪本社までうかがってきました。

「株式会社人間」

ー「ス」。

オフィスの壁を飾るおしゃれな木製の棚の上には、不思議なものがたくさん並んでいます。中でも目に飛び込んでくるのは、大きな大きな「ス」の文字。


今回は、同じく代表取締役で“アイデアマン”という肩書きもお持ちの山根シボルさん(右)、 そしてちょっと上から目線の(実際はとても丁寧に対応いただきました…)ディレクターの佐々木航大さんに迎えていただき、お話をうかがいました。
 

「ス」。…あれは、いったい?
山根さん
あれは、「スイス」ですね。

スイス。
山根さん
「スイス」っていう椅子なんですけど。あの上に座れるわけです。

「ス」の椅子で、「スイス」。
山根さん
その通りです。

かわいい…。この椅子も、株式会社人間さんで制作されているんですか?
山根さん
原価率とか流通のことをまったく考えずにはじめたので大量生産はできないんですけど、これがいちばん最初につくった、形のある「売りもの」ですね。

ということは、たくさん売り上げるためにつくられたわけではない、ということですよね。いったい、なんのために…?
山根さん
もともとこれは趣味ですね。

趣味。
山根さん
つくりたかったから、つくった、という感じで。

だけど、広告制作会社さんですよね?
山根さん
そうなんですよ。だからこそ、つくりたくなってしまったんですよね。

 
聞けば聞くほどに、なにがなんだか、抜けられない深い森の様相を呈してきました。自然とまばたきも多くなってしまいます。

「形あるもの」のおもしろさ

山根さん
まあ、「スイス」はもちろん“ダジャレ”ではあるんですけど、とにかくつくろうと思いついて。やっぱり、webや広告の仕事を基本としてるので、普段つくってるものに「形」が無さすぎる、というのはあったと思いますね。

手に取れるもの、としての実感というような。
山根さん
そうですねえ。やっぱり「もの」として実感が得れるもののたのしさって、絶対あるよなあ、というのは思ってたんで、そういうものづくりはしてみたかったんですよね。でも、ほんまにつくりたくてつくっただけなんで、「収益性」みたいなことを、なにも考えれてなかった(笑)。

そういうことだったんですね。徐々に理解が追いついてきました。
山根さん
反省を活かして、大量生産ができて流通にも乗せられるものを、という考えでつくったのが「あの宝箱」という商品なんです。

あの宝箱

まさに、「あの」宝箱ですね。これはかなり人気を集めそうな商品です。紙製ですか?
山根さん
そうです。生産しやすくて、軽くて折り畳める。気に入ってくれるひとが、必ずいるだろうというのも思って。
佐々木さん
月に30個近く買っていただいてるんじゃないでしょうか。

すごい。とっても人気ですね。
山根さん
この数売れているということは、毎日のように、あの「あの宝箱」は、「株式会社人間」という名前を乗せて、誰かの家に飛んでいってるわけで。そう思うと、すごく不思議というか。おもしろいなあ、と単純に思うんですよね。自己顕示欲だったり、承認欲求がすごく満たされる(笑)。

今までのwebや広告のお仕事とは、また違ったおもしろさだったんですね。
山根さん
特にwebのコンテンツって、何万人もの人が見てくれてるはずじゃないですか。ひょっとしたら、もっと届いてるかもしれない。でも、実体のあるものづくりには、webにはない「重たさ」「質量」みたいなものを感じてしまうんですよね。
佐々木さん
これが誰かの家に届いたり、時間が経っても「まだこれが家にあるのかあ」と思うと、やっぱり形のないものとは、また別の喜びとかうれしさがありますね。
山根さん
そういうたのしさを知っちゃいましたね。

「間取ラー」の制作は、“はじめて”だらけ

minneでも販売いただいている「間取ラー」の制作は、どういった経緯だったんですか?
山根さん
はじまりは、うちの奥さんがどうやら「間取り好き」みたいで。別に借りる予定もないのに不動産屋で見たりしてるのを隣で見てて、ここにはなにか需要がありそうやなあ、と思ったんですよね。それで、うちの会社がアイデアを溜めて公開してる「企画天国」というサイトに、アイデアを載せてたんです。

すぐに実現はされたわけではなかったんですね。
山根さん
そうなんですよ。制作のきっかけは、憧れでもある「明和電機」さんが東京・秋葉原で「ラジオスーパー」という店舗をつくろうとされていて、「人間さんも、なにか販売するものないですか?」と声かけてくれはったんですよ。それで、「企画天国」の企画をネタ見せのように見せてたら、「これいいじゃないですか」と。

アイデアを気に入ってくださった。
山根さん
「レーザーカッターで簡単につくれますよ」と返事して。
佐々木さん
そしたら、つくれなかったんです(笑)。

えええ(笑)。なにがネックになりましたか。

佐々木さん
はじめに調べないといけないことが、もう本当にたくさんあって。なにも知識がないところからのものづくりなので。
山根さん
正直、minneで木製の器を販売されてる作家さんの作品もめちゃくちゃ参考にさせてもらったんですよ。「どんな木でつくるんやろう?」「どんなオイルを使うんやろう?」とかわからないことだらけなので。

たしかに、水洗いして繰り返し使うものですもんね。それに耐えられる素材で、なおかつ、安全なものじゃないといけない…。
山根さん
そうなんですよね。研究して、いろんな木を使って、オイルを塗って…、というのを社内で何回も試したり。また、デザインはデザインで大変で。

「間取り図」のデザインは、プロの方にお任せされたわけではないんですか?
山根さん
自分たちでめちゃくちゃ調べましたね。考えることがあまりにも多いので、ものづくりの研究は、もう彼(佐々木さん)に任せて、ぼくは物件の勉強をはじめたんです。「物件にこだわってる人はどこを見るか」とか、「人は、どういうところに気をつけて物件を選ぶのか」とか。物件を紹介するサイトを運営されてる方に直接コンタクトを取って、たくさんヒアリングもさせてもらいました。

そこまでされたんですね。それは、だいぶ詳しくなられたんじゃないですか。
山根さん
「大阪なら、“大阪府”が市営住宅をつくるための“標準の間取り”をつくってる」とか(笑)。そういうのを見ると、日本ではどういう間取りが多いか、というのも徐々にわかってくるんですよね。それらを参考にしながら、見た目の美しさを保つために自分でルールも決めて、間取りを書き起こしましたね。書き終えたら、物件紹介サイトの方にまた「おかしいとこないですか?」と。

しっかりレビューもお願いして(笑)。
山根さん
そしたら、「ここに和室があるのはおかしい、洋室のはずだ」とか(笑)。ようやくできあがったのが、いま販売してる6種類の間取りなんですよね。並べたときに矛盾が出ないように、というのも気にしてますね。

はあ…そこまで考えられているものなんですね。改めて、見入ってしまいます。実際の制作を任された佐々木さんは佐々木さんで、制作に関する研究を進められていたわけですよね。
佐々木さん
研究して試して、という感じで試行錯誤を繰り返してましたね。本業の合間を縫ってやることだったりするので、かなり時間もかかってしまって。レーザーカッターの使い方も本当にいちからの勉強だったんです。


近くの、Fabスペース兼コワーキングスペース「TheDECK」で実際の作業も見せていただきました。今では、流れるような手さばきでレーザーカッターに木板をセットし、カットを始める佐々木さん。
佐々木さん
サイズが大きすぎてもマドラーとして使いにくいので、細さ、薄さも重要で。何mmの板なら用意できるか、というのを木材業社さんにご相談して決定したんですけど、レーザーカッターの調子によっては同じ設定でも同じように加工できなかったりもするんですよね。そのくらいシビアなものなので、慣れるのに最初は苦労しました。

全部でどれくらいの時間がかかったんですか?
佐々木さん
制作を決定したのが1月だったと思うんですけど、完成した頃には8月になってましたね。
山根さん
ところが、なんとか8月に発表して売りはじめたら、予想以上に反応が良くて。

合間の作業となると、生産が追いつかなかったんじゃないですか…?
山根さん
そう、ありがたいことに反応が良すぎて困っちゃったんです。明和電機さんのお店「ラジオスーパー」でも1週間くらいで 全部売り切れてしまって納品することもできず…。

素材が燃える、独特の香りが鼻をかすめます。
佐々木さん
実際の制作自体は、今のところぼくがひとりで行なっているような状態なので、なんとか可能な部分は効率化させたいなと思っています。
山根さん
試しに、切り抜いたあとの木材をケースにしたら、これが可愛くて。コストが高くなる原因ではあるんですけど、やっぱり満足度が下げるぐらいだったら、値段上げてでも続けたいなあと思ってるこだわりですね。ものづくりも販売も、やっぱり難しいなあ、と改めて思いますが、そこは大事かなと。

そのくり抜かれたシルエットもかわいいケースと、完成した間取ラー。作業に慣れても、扱い方はとても丁寧です。

実はすごく…真面目ですね。とっても真摯に感じます。
山根さん
手を抜けばいいところも、真面目ですねえ…(笑)。真面目に変なことをやる会社だ、と思っていただければ。

「形のないもの」への向き合い方

その真面目さは、web制作でも遺憾なく発揮されています。

TOROMI PRODUCE」さんのトータルブランディングも手がけられたお仕事。サイトがとろみががっています。
山根さん
やっぱり「人に見せること」ばっかり意識している、というのは共通してると思いますね、形のあるものもないものも、そこは変わらずに、「見せるためのものづくり」やと思ってます。これ(写真・上)はTOROMI PRODUCEっていう会社のブランディングとして、ロゴデザインやサイトの制作をお手伝いしました。

社名とリンクして、一度見たら忘れられませんね。
山根さん
web上だけじゃなくて、レセプションパーティで使用するペーパーツールや名刺なんかもすべてつくらせていただいたんですけど、まずは「とろみってどんなもんやったっけ?」と実際にとろみをつくってみるところからはじめました。意外とすべてに真面目に向き合ってるのかもしれません。

待ち遠しくなるような年賀状


最後に「人に見せる、と言えば…」と見せていただいたのは、一見よくある不在票。

山根さん
これ、年賀状なんです。

え。これがですか?
山根さん
これは、実際に電話も繋がるようになっていて、自動音声でキーワードをおしえてくれるんです。それを、裏面に記載されてるLINEのアカウントのところで入力するとまたクイズが始まって。最終的にセブイレブンでお金を出してプリントアウトしたら本物の年賀状が出てくる、という。

まどろっこしい(笑)。でも気になっちゃいますね、年賀状を手に入れるまで一生懸命になってしまいそうです。
山根さん
そういうものを会社の年賀状として出す、というのを毎年続けていて。衣をつけて揚げてみたこともありました。

天ぷらになって、パックされている年賀状。
山根さん
オリジナルで食品サンプルを制作してもらおうと思うと、すごくコストがかかるので、これもロウを使って自分たちで制作しました(笑)。毎年、年末が近づくとオフィスが工場みたいになるんですよ。

12月中に届いてしまう、という「早すぎる年賀状」。目にも留まらぬハヤさです。その奥の年賀状は、レンガでできています。

あまりにも大変ですね…(笑)。だけど、毎年たのしみにされてる方が、たくさんいらっしゃるでしょうね。
山根さん
毎年、ハードル上がってくのは感じてますね(笑)。

きっかけを生み出すものづくり

もちろん、webの制作をはじめ、しっかりと実績や売上があるからこその「諸々を度外視したたのしみ」というものがあるのだと思いますが、そこまでの情熱は、いったいどこから来るのでしょう…。
山根さん
根本は「つくりたい」っていう想いですよね。金額的なコストや時間の面で足踏みすることだって、たまにはありますけど、たとえば「やったことあるか?」「やれる人間は社内にいるか?」みたいなことは気にしたことがないですね。

なんでもその気になれば自作できる、ということなんですね。
佐々木さん
勉強すれば、意外となんとかなるものです。
山根さん
そこは、「見てほしい」という気持ちでいつもやりきっちゃうんだと思いますね。

山根さん
実際は、「おもしろい」だけじゃなくて実益につながっているところもあって。たとえば年賀状は、営業ツールとしてもちゃんと機能していたりもするんです。「間取ラー」も、知ってもらう機会をたくさん生んでて。まずは「つくりたい」という想いと、「ぼくたちを知ってもらいたい」という想いの掛け合わせでしょうね。

「知ってもらうきっかけ」をつくる作戦としては、とても魅力的です。
山根さん
人に笑ってもらったり、びっくりしてもらったり、というのも大事にしてる部分ですが、こういった形のあるものづくリは、思いがけずWebの届かないところにも届いたりするものなんです。そんな広がりから、一緒に何かしたいという人に奇跡的につながったりすれば、大成功だと思ってるんですよ。
株式会社人間
ギャラリー: https://minne.com/@ningeninc
公式サイト: https://2ngen.jp/

 
取材・文/中前結花  撮影/真田英幸