【店長・山下優 連載】本屋のABC 第3回「変わらないために動き続けること」

青山ブックセンター本店・店長の山下優さんによる連載。お店づくりや商品の売り方などと合わせて、毎回1冊おすすめの書籍をご紹介いただきます。今回のテーマは「働き続けること」についてです。

働き続ける

こんにちは、青山ブックセンター本店店長の山下です。
締切日の4連休最後の日に書いています。
この4連休、表参道、原宿、渋谷には、今までの反動か、人の流れが戻ったように思います。

新型コロナウイルスの影響を受けて、わたしたちが新しく始めたことは、オンラインでのイベントのみです。今年の4月に開始したオンラインストアも以前から準備していたものが、ようやく公開できたタイミングでした。

マイナスの影響としては、来店客数の減少、特に平日は以前の6割前後になりました。それでも8月は、高い購入率と単価、オンラインストアの売上によって、前年同月比9割ほどの売上でした。

プラスの影響は、以前からずっと考え続けてきた「本屋・青山ブックセンターの存在意義」をより高い解像度で考える機会になっていることです。
店舗がある価値、店舗である意味、オンラインでできること、できないことを、整理しつつ、磨いています。

今回は、わたしたちがもともと準備を進めてきた中から、2つの取り組みについて紹介したいと思います。
なぜならそれは、「これからどうしていくべきか」のヒントにも繋がる内容だったからです。

2つのヒント

ひとつ目は、下北沢で発酵デザイナーの小倉ヒラクさんが始めた、味噌、醤油、納豆、酒など全国のめずらしい発酵食品を幅広く取りそろえているコンセプトショップ「発酵デパートメント」で販売する書籍コーナーです。

選書を当店が担当させてもらっているのですが、棚1本でスタートしたところ、反響を受け、当初予定していなかった壁面に大きな書棚をつくっていただきました。

まだまだ選書内容は精査中ですが、上の階に別の書店があるにも関わらず、毎月の売上には驚いています。
お店に中々来てもらえないなら、こちらから出向く。
決して目新しい考えではないのですが、イベントやポップアップではなく、書店ではないお店に常設の本棚があることは、当店としても、そのお店にとっても、意味合いを拡張できることを確信しました。
この状況下でできたので、今後もいろいろな場所と良き形で関係性を紡いでいきたいです。(関西でも、進行していて止まってしまったプロジェクトがあるので機を見て再開させたいです。)

ふたつ目は、当店の新たな展示スペースとして「私たちの株式会社」がプロデュースする『SPACE』が誕生したことです。当店と「私たちの株式会社」が合わさり、長年使われていなかったデッドスペースをギャラリーとして生まれ変わらせることで、従来の本屋(当店)の枠組みを越えていこうという取り組みです。

当初は代表の赤澤えるさんが本を自費で刊行されるので、それに合わせて、もともとあるギャラリスペースで展示を、というお話でした。
赤澤さんは長年当店に通っていただいており、特に好きな「写真集コーナー」の、その奥にあるスペースがずっと気になっていたそうです。

「ここで!」と決まってから、できることできないことを確認しながら、アイデアを擦り合わせていき、素晴らしい形になりました。当店の中からの視点だけでは、決してつくることはできなかったですし、そもそも思い浮かびもしなかったはずです。どれだけ凝り固まった考えを、柔軟に変えていけるかということを教えてもらいました。

赤澤えるさん著書のアートブック『私たちのワンピース』も、すでにクラウドファンディングで相当数を販売済みだったのですが、当店でも発売と同時にものすごい勢いで、お客さまのもとに届けることができました。

『SPACE』にて行われる初の展示として、9月9日よりアートブック『私たちのワンピース』の一般販売に合わせた、「私たちのワンピース展」を12月まで開催中。

発酵デパートメント、『SPACE』、どちらも、デッドスペースをつくり変えることで、お店の新たな面を引き出すことができました。
今回の取り組みを通して、改めて本屋として場の力、本の魅力にも気づかせてもらいました。まだまだできることが、たくさんあります。

すべては本を届けるため

今後の連載でも触れていきたいですが、ロゴを一新したのも、出版を始めたのも、すべてはもっと本を届けるため、本屋として、できるだけ長くこれからも存在し続けるためです。
本を届ける、という軸が今後も変わらないために、今後も動き続けていきます。

オンラインでできることも拡げていきたいですが、実店舗の魅力をもっともっと引き上げていきたいです。

今回の1冊

『アニミズム時代』
出版:Takram
著作:渡邊康太郎

ーーいま、人類は未曾有の大変革期に直面している。そこでは民族と民族がぶつかりあい、宗教と宗教が対立し、人類と自然との共存が危ぶまれている。迫りくる危機を声高く警告する人もいるし、黙って、こころの奥深くに終末を予感している人もいる。
こういう危機的な時代のなかで、各方面からアニミズムにたいして期待がよせられているのだ。「この人類的な危機を救うためにはアニミズムを再検討しなければいけない」。そういった提言なのである。ーー(本書「はじめに」より)

1993年に刊行されていた本書が文庫化。上記「はじめに」を読んで、2020年現在のことかと錯覚してしまいました。どうぞ、人の知性による、論理と言葉で置きかえることのできない世界を考えていく手がかりに。

 

山下優
青山ブックセンター本店店長。1986年生まれ。2010年、青山ブックセンター本店入社。アルバイトを経て2018年11月に社員になると同時に店長に。
山下優Twitter:https://twitter.com/yamayu77
青山ブックセンター本店 公式HP:http://www.aoyamabc.jp/store/honten/

 

書き手 / 山下優
バナー、プロフィール写真 / 植本一子
編集 / 西巻香織