【店長・山下優 連載】本屋のABC 第4回「10年続けてきたからこそ見える景色」

青山ブックセンター本店・店長の山下優さんによる連載。お店づくりや商品の売り方などと合わせて、毎回1冊おすすめの書籍をご紹介いただきます。今回は、書店員として長く働き続けてこられた理由についてです。

書店員を続ける理由

こんにちは、青山ブックセンター本店店長の山下です。
気づけば、書店員として、青山ブックセンター本店で働き始めて、約10年半が過ぎました。働き始めた頃は、こんなにも長く続けたいと思っていなかったし、続けられるとも思っていなかったです。

先日、別々の友人に「何で書店員を続けられているのですか。何が喜びですか」「将来はどうするのですか」と立て続けに聞かれました。どちらもぼんやりとしか考えてこなかったのですが、この機会に、なぜ書店員を続けていられるかについて書きたいと思います。

辞める、という選択

正直、何度か辞めようと思ったことはあります。
書店を超えて、出版業界に変わらず残り続ける頑なで謎のルールや仕組み。業界として長く続いてきたことに対しては本当にリスペクトしていますが、新しいことを取り入れようとしたり、何かを改善しようとしても「前例がないから」とか「決まりです」の一点張りだったりもします。

また、基本的にはずっとアルバイトで、給与面も含め、先の見えない待遇面。あるときの契約更新の場で条件を満たしているのに給与が上がらなくて、上がらないならサインしない(その場で2回も…)という、野球選手のようなこともありました。

そして、個人的な性分でどうしようもないのですが、わりと飽き性という気質。
本当にいつ辞めていてもおかしくなかったです。

書店員としての喜び

それでも、著者をはじめ、たくさんの人が関わって刊行された本が、当店に届き、お客さまが当店に来店されて、売り場、棚に並べたところから手に取り、レジに持っていきお会計をしていく。それは、大袈裟ではなく「奇跡」に近いようなことだと思っています。

本がよきタイミングで、その場に並んでいたからこそ、お客さまに届く。当然、逆のこともありえます。いつ、どこに、どの本を並べるか、ということに正解はないですし、これで完成ということもありません。
この奇跡のような醍醐味を味わえること、お店が続く限り味わい続けられることで、わたしも書店員を続けることができるのだと感じます。わたしにとって、1番の喜びです。

また、青山ブックセンターだから、ということも大きかったです。著者に直接お会いできる機会が多く、選書フェアやイベントにご協力いただけることも、本当に恵まれていると思います。そして、だからこそ「もっと届けたい」という想いを強く持ってこれました。

独学の百科事典、『独学大全』の著者である読書猿さんによる選書フェアを開催中。読書猿さんのおすすめ書籍がコメント付きでずらりと紹介されています。

店内にて、五十嵐大介さんの新作絵本『バスザウルス』の原画展を開催中。11月4日まで。

当店のお客さまに響きそうなタイトルが、個人的にも響き、おもしろそうだなと思えることが多かったことも、この場所柄と、当店の今までつくり上げてきたカラーがあってこそです。

将来のこと

よく「独立するのですか」とも聞かれるのですが、今はまったく考えていません。
独立するとしても、いわゆる個人書店をやることはないかなと、現時点では考えています。学生時代、当店のような中規模の書店に出会ったときの衝撃のように、今後も青山ブックセンターは価値を持った場所になると考えているからです。もっともっと先に、場所ごとにまったく形態が違うチェーンの書店をやりたい、とは漠然と考えています。

それよりも、まずは青山ブックセンターを今後もどう残していけるか。スタッフの待遇面をどう改善していくのか。
いわゆる業界の中のたった1店舗ですが、書店として健全に経営を続けられるようにし、書店員が苦しくない生活を送れるようにし、そこから「書店員は格好いい」というか、「書店員はおもしろそう」と思ってもらえるようにしていきたいです。売上にこだわっているのも、ボロ儲けをしたいからではなく、上記の理由です。

正直、現在コロナウイルスの影響をダイレクトに受けて、厳しい状況です。でも、遅かれ早かれ、やらなくてはいけなかったことが削り出され、明確になりました。

もっと本の、本屋の、青山ブックセンター本店の良さを伝えていくことが必要です。放っておいても、本がたくさん売れていた時代に気づくことができなかったからこその課題だと思います。
数は減るかもしれませんが、本屋という空間と場所はこれからも必ず必要とされると思うので、しっかり向き合っていきたいです。

次回は当店の出版プロジェクト、「Aoyama Book Cultivation」について書きたいと思います。

今回の1冊

『すこやかな服』
出版:晶文社
著者:マール コウサカ

「健康的な消費のために」という姿勢のもと、新しい販売方法で美しい服を世に送り出し続けるファッションブランド「foufou(フーフー)」。
服を買ってくれる人も作り手も納得のいく服と仕組みづくりのためにfoufouがやっていること、さらに日々「気持ちよく消費するため」にはどうしたらいいのか?デザイナーが伝える、「健康的な消費」のかたち。
静かな佇まい、ポップな文体ですが、読み進めていくと、その熱さに気づかされます。服屋を本屋に置き換えても刺さることばかりで、迷うことがあったら何度でも読み返したい1冊です。

 

山下優
青山ブックセンター本店店長。1986年生まれ。2010年、青山ブックセンター本店入社。アルバイトを経て2018年11月に社員になると同時に店長に。
山下優Twitter:https://twitter.com/yamayu77
青山ブックセンター本店 公式HP:http://www.aoyamabc.jp/store/honten/

 

書き手 / 山下優
プロフィール写真 / 植本一子
編集 / 西巻香織