波佐見におそわる、「つくれない」ものづくり。

2015年より始動し始めた、マルヒロさんとのお取り組み「蕎麦猪口大事典 〜minne meets 馬場商店〜」 。minneと長崎の波佐見焼(はさみやき)がコラボレーションし、minneの作家さんがデザインしたそば猪口が、実際の商品ラインナップとなって販売される というもので、各所で大変ご好評いただいた結果、500点以上のデザインが集まりました。今回はそこで、選びぬかれたminne作家さんのデザインが商品化されていくにあたっての、作品サンプルの製作工程を取材させていただきました。

つくって、やり直して、つくる。

交わりそうで交わらない、WEBサービス「minne」と、伝統工芸品を扱う「マルヒロ」。意気投合のポイントとなった唯一の共通点、それは”自分たちで商品(作品)を「つくれない」”ということでした。

マルヒロさんがメインで取り扱う波佐見焼は、地域で分業をすることで大量生産が可能であり、それぞれの窯元さんが得意とする技法を使えるところが最大の強み。大衆食器として日常的に愛される商品をつくり出していく、というところをコアに持ちつつ、様々なバリエーションの商品を生み出してきました。

モノ自体の良さを発信していく同時に、最近では「コミュニティとしての波佐見」も大切にされていて、”波佐見焼としての質+波佐見での職人さんたちの横のつながり”のような、場所だけでなく人の魅力も伝えていきたいとのこと。

抱えている葛藤やこれからの展望など、minneと重なる部分が多く、なにか深い絆のようなものを感じました。 それと同時に、この「蕎麦猪口大事典 〜minne meets 馬場商店〜」 は、これまでになかったハンドメイドの価値、波佐見焼の価値が創造できるとも確信しました。

minne作家さんのデザイン案は、具体的にどういう手順で商品化されていくのか。ものづくりに携わるminneとしても、しっかりと見届けて、そして、波佐見焼の職人さんに直接お会いし、もっと波佐見についての理解を深めたいという意気込みで、現地へ向かいました。

前回マルヒロさんを訪れたのは、2015年の7月。それから季節はすっかり変わって、その日はシンとした空気の中、冷たい小雨が降っていました。

今回もまずは、取材にご同行いただくマルヒロさん御一行にごあいさつ。元気に出迎えてくださったのは、マルヒロ・ブランドマネージャーの馬場匡平さん。 いつお会いしても、明るくて穏やかな馬場さん。ハンドメイド大賞2016のゲスト審査員としてもご参加いただいており、大変お世話になっています。

「さっそく行きましょうか〜」と出発して、自然豊かな風景を横目に、少し車を走らせたところで窯元さんに到着です。

まず案内していただいたのは、転写シートをつくる工程。 今回のそば猪口は、ベースとなるそば猪口に、作家さんのデザインを転写シートにして貼り付け、焼成する、という流れでできあがります。大きな印刷機と、たくさんのサンプルに囲まれて、職人さんたちが黙々と作業されています。

波佐見焼は大量生産で作られる陶磁器です。完成品を作る土台が整うまでは、手作業で試作をくりかえします。転写シートは、シルクスクリーンという技法で作られます。 わたしたちの身の回りにあるTシャツやトートバッグなどでも、同じ技法が使われていることが多いので、なんだか身近に感じます。

これが、シルクスクリーンに使う「版」というもの。シート全体がメッシュ状になっていて、色が明るく透けている部分にインクを乗せると、染み出してプリントされる、という仕組みです。 (昔懐かしの年賀状のオトモ「プリントゴッコ」などがまさしくその原理)

このシート(スクリーン)が、薄いか厚いかでも色ののり方が変わってくるため、インクの色との兼ね合いで、細かいニュアンスの変化が生まれます。インクは、粉状の染料と油を混ぜて作られます。 100色ほどある染料をバランスよく調合し、油の分量のバランスで、色が決まります。 染料の調合は、耳かきほどの量の違いでも色が変わってくるので、緻密な調整が必要とのこと。インクの色見本は、細かい染料の分量とともに並べられていました。

この日はちょうど、nanikaさんの「さんぽ」の試作をしているところでした。細かい調整内容が、指示書に書き込まれているようですね。

さっそく先ほど調合したインクを、スクリーンに乗せてみます。ゴム製の刷毛で、スーッとインクを刷って

『パッ!』

たぬきの部分の色が乗りました。

ちなみに、刷毛のゴム部分の硬さでも、色の乗り方が変わってきます。スクリーンの厚みやインクの調合、ゴムの硬さでインクの色が決まるのです。

シルクスクリーンは1色につき1版が鉄則なので、別の色を使うときは、別のスクリーンに版を作って、1枚の紙にどんどん重ねて印刷します。重ねた時、色と色がズレてデザインが崩れないように、印刷用紙の角には目印(トンボ)がついていて、ここを合わせるようにして、色を重ねて仕上げていきます。

こうして何度も試作を繰り返し、完成形に近づけていく。じっくり人の手をかけて試行錯誤している様子は、ものづくりの原点を感じることができます。

大量生産を支える、職人さんの手仕事。

続いて見せていただいたのは、出来上がった転写シートをベースのそば猪口に貼る作業です。調整に調整をくり返し、シルクスクリーンで色を重ねて、ようやく完成形としてできあがった転写シート。 転写シートは、印刷したデザインのシートと、剥離紙の2層構造になっていて、まずシートに水をつけて、剥離紙と分かれるように、水分でゆるめます。水につけたシートをすべらせるようにして、剥離紙から少しずつはがしながら、くるくるそば猪口を回して貼っていきます。

シートの黄色い部分は、ここにシートが貼ってありますよ、というのをわかりやすくするために色がついていて、焼成したらその色は消えるそう。

職人さんは、とても手慣れた様子でそば猪口にキレイに転写シートを貼っていきます。 人差し指と中指の先が切り取られた軍手は、素手で調整したい部分と、適度に水分を吸収してほしい部分と、使い分けることができる優れもの。長年の経験をもとに、いちばん作業しやすい道具として工夫して編み出されたそうです。

シートをよく見ると、黄色い透明部分にところどころ丸い穴があります。それは、そば猪口とシートの間に、余計な水分や空気が入ってしまわないよう、それらを逃がす穴としてつけられているものです。ぴったりとシートが貼られていないと、うまく絵付けができず、そこから絵が割れてしまうんだとか。割れてしまえば、商品として世に送り出せない、いわゆる"B品"となってしまいます。

わたしたちも、転写シートを貼る作業を体験させていただきましたが、結構コツが必要で、とても難しいです…。職人さんのように、なかなかピンときれいにシートが貼れません。

実はこの転写シートを貼る作業、普段商品として大量生産されるものも含め、全部手作業で貼られているとのこと。器やコップ、お皿なども含め、湾曲している陶器に絵付けするには、どうしても人の手で丁寧に行っていく必要があります。

転写シートを貼ったら、焼成していよいよサンプルが完成です。ベルトコンベアと一体になった、なが~い釜にゆっくりと入っていき、約800℃の釜で5時間ほどかけて焼き上げていきます。肉眼ではわからないくらいのスピードでじっくりと焼き上げて、絵付けを定着させていきます。

焼き上がって釜から出てきたそば猪口は、ゆらゆらとした陽炎もできるくらい高温。熱が冷めたら制作の工程は終了なのですが、サンプル作成はこれで終わりではありません。

「つくれない」からこそ、妥協しない。

サンプル品として出来上がったそば猪口は、作家さんからいただいた原画のデザインや雰囲気、そして作家さんが作品に込めた思いを汲みとって、そこからまた調整を続けていきます。

「おのおのいろいろ」は、個性豊かなキャラクターを引き立てるために、ぷっくりと厚みをもたせ、少し立体感が出るような技法をつかいます。

「貴族のおちょこ」は、最大の魅力である鉛筆書きのようなラフな描線を的確に表現できるよう、かすれた感じや色の濃淡を何度も調整されていました。

「結晶」は、マットな発色の釉薬を使い、絵柄のエッジをギザギザにして、無機質さをなくしたハンドメイドらしさを表現。

「kitsunekakeru」は、キツネの躍動感を活かしつつ、柔らかい色の組み合わせになるよう色の重なりを何度も何度も調整します。

「さんぽ」は、コミックタッチなイラストを活かすようスクリーントーンのようなドットで色を表現したり、ベタ塗りだけど表面に模様を入れたり。

転写シートの細かいデザインの調整は、パソコンと大きな印刷機、大量の指示書にかこまれた「デザイン室」というところで行われています。マルヒロスタッフさんと窯元のデザイナーさんとで、ひとつひとつ細かい仕様をデータを見ながら確認していきます。

マルヒロさんの「焼き物にしかできない技法で、デザインを最大限に活かすことが、わたしたちの役目」「商品化された5種類のデザインには、それぞれ5種類のアプローチが必要」という言葉がとても印象的でした。 確かに、出来上がった絵をそのままもらって貼り付けるであれば、ただ販促用に大量生産されるノベルティと同じことです。焼き物の強みを活かして、細かいこだわりを表現することで今回、作家さんの想いとマルヒロさんの想いの重なった最高の商品が出来上がりました。

波佐見焼は、"横のつながり" がとても重要な産物です。生地職人さん、型職人さん、窯元さん。全ての職人さんたちのチームワークがあって生まれるのが、波佐見焼です。

商社であるマルヒロさんは「つくることができない」からこそ、昔から続いている伝統的な横のつながりを大切にし、それを活かし、商品そのものの魅力はもちろん、つくっている人や場所の魅力を伝えていきたいと語ります。

それは、”つくれない”minneでも、全く同じこと。場所や人、コミュニティ自体に魅力が生まれ、賛同してくれる人が集まり、さらにコミュニティが深く大きくなっていく…。まさにminneでも理想としているものが、そこにはありました。

インターネットサービスと伝統工芸。対極的な位置づけにありそうなモノ同士ですが、「ハンドメイド」を通してひも解いてみると、学ぶことや共感することが、数えきれないほどありました。

プロフィール

マルヒロ

長崎県波佐見町で生産されている、波佐見焼(はさみやき)の企画や卸販売を行う。 「HASAMI」「馬場商店」「ものはら」「the plase」の、4つの波佐見焼のブランドを運営しており、400年もの歴史がある焼き物でありながら、モダンで実用的なデザインと豊富なカラーバリエーションが特徴的なアイテムを作り続けている。 国内の多くのセレクトショップにも取り扱われるほか、海外メディアからの注目も集めている。